≫ 患者さんの権利と責任-「リスボン宣言」-

「リスボン宣言」とは

 「患者さんの権利」と責任に関して、世界医師会総会が採択した宣言文章です。その歴史的成果は、1981年9月/10月、ポルトガルのリスボンで開催された第34回世界医師会総会で採択されたものですが、その後、1995年9月、インドネシアのバリ島における第47回世界医師会総会で修正され、2005年10月には、チリのサンティアゴにて第171回世界医師会理事会で編集上の修正を受け、現在に至っています。
 初めてこの「患者の権利宣言」が承認された地名を記念して、「リスボン宣言」と広く呼称されており、この宣言を尊重し、日本は勿論、世界の医療施設では個々の状況に応じた「患者さんの人権と責任」を提示しています。

「リスボン宣言」序文

 医師、患者およびより広い意味での社会との関係は、近年著しく変化してきた。医師は、常に自らの良心に従い、また常に患者の最善の利益のために行動すべきであると同時に、それと同等の努力を患者の自律性と正義を保証するために払わねばならない。以下に掲げる宣言(各11項目とそれぞれの説明を記述、なお、紀南病院の「患者さんの権利と責任」の項目は8項目にまとめており、7・8番目の項目は患者さんの責任について特に当院が作成)は、医師が是認し推進する患者の主要な権利のいくつかを述べたものである。医師および医療従事者、または医療組織は、この権利を認識し、擁護していくうえで共同の責任を担っている。法律、政府の措置、あるいは他のいかなる行政や慣例であろうとも、患者の権利を否定する場合には、医師はこの権利を保障ないし回復させる適切な手段を講じるべきである。

<11項目のタイトル>
1.良質の医療を受ける権利 2.選択の自由の権利 3.自己決定権の権利
4.意識喪失者 5.法的無能力者 6.患者さんの意思に反する処置・治療
7.情報に関する権利 8.秘密保持に関する権利 9.健康教育を受ける権利
10.尊厳性への権利 11.宗教的支援を受ける権利


紀南病院の「患者さんの権利と責任」各項目の説明

1.良質で安全な医療を公平に受ける権利

(1)全ての人は、差別なしに適切な医療を受ける権利を有します。
(2)全ての患者さんは、いかなる外部干渉も受けずに自由に臨床上および倫理上の判断を行うことを認識している医師から治療を受ける権利を有します。
(3)患者さんは、常にその最善の利益に即して治療を受けるものであり、患者さんが受けるその治療は、一般的に受け入れられた医学的原則に沿って行われます。
(4)質の保証は、常に医療のひとつの要素でなければなりません。特に医師は、医療の質の擁護者たる責任を担うべきです。
(5)供給を限られた特定の治療に関して、それを必要とする患者間で選定を行わなければならない場合は、そのような患者さんは全て治療を受けるための公平な選択手続きを受ける権利があります。その選択は、医学的基準に基づき、かつ差別なく行われなければなりません。
(6)患者さんは、医療を継続して受ける権利を有します。医師は、医学的に必要とされる治療を行うにあたり、同じ患者さんの治療にあたっている他の医療提供者と協力する責務を有します。医師は、現在と異なる治療を行うために患者さんに対して適切な援助と十分な機会を与えることができないならば、今までの治療が医学的に引き続き必要とされる限り、患者さんの治療を中断してはなりません。


2.診療にかかわる全ての情報を知る権利

(1)患者さんは、いかなる医療上の記録であろうと、そこに記載されている自己の情報を受ける権利を有し、また症状についての医学的事実を含む健康状態に関して十分な説明を受ける権利を有します。しかしながら、患者さんの記録に含まれる第三者についての機密情報は、その者の同意なくしては患者さんに与えてはなりません。
(2)例外的に、情報が患者さん自身の生命あるいは健康に著しい危険をもたらす恐れがあると信ずるべき十分な理由がある場合は、その情報を患者さんに対して与えなくてもよろしいです。
(3)情報は、その患者さんの文化に適した方法で、かつ患者さんが理解できる方法で与えられなければなりません。
(4)患者さんは、他人の生命の保護に必要とされていない場合に限り、その明確な要求に基づき情報を知らされない権利を有します。
(5)患者さんは、必要があれば自分に代わって情報を受ける人を選択する権利を有します。


3.セカンドオピニオンを聞く権利

(1)患者さんは、民間、公的部門を問わず、担当の医師、病院、あるいは保健サービス機関を自由に選択し、また変更する権利を有します。すなわち、初回診療施設で説明を受けた診断と治療指針などについて、異なる施設での説明を受ける権利があり、これが「セカンドオピニオンを聞く権利」です。
(2)この場合、初回施設での担当医師は当該施設での検査結果なども異なる施設に提供する義務があります。


4.治療法、担当者、医療機関等を選択・決定する権利

(1)全ての人は、個人の健康と保健サービスの利用について、情報を与えられたうえでの選択が可能となるような健康教育を受ける権利があります。この教育には、健康的なライフスタイルや、疾病の予防および早期発見についての手法に関する情報が含まれていなければならず、健康に対する全ての人の自己責任が強調されるべきです。医師は教育的努力に積極的に関わっていく義務があります。
(2)患者さんはいかなる治療段階においても、他の医師の意見を求める権利(セカンドオピニオンを聞く権利)を有します。
(3)患者さんは、自分自身に関わる自由な決定を行うための自己決定の権利を有し、医師は、患者さんに対してその決定のもたらす結果を知らせるものでなければなりません。
(4)精神的に判断能力のある成人患者さんは、いかなる診断上の手続きないし治療に対しても、同意を与えるかまたは差し控える権利を有しています。患者さんは自分自身の決定を行ううえで必要とされる情報を得る権利を有し、患者さんは、検査ないし治療の目的、その結果が意味すること、そして同意を差し控えることの意味について明確に理解するべきであります。
(5)患者さんは医学研究あるいは医学教育に参加することを拒絶する権利を有します。

<意識のない患者>
(1)患者さんが意識不明かその他の理由で意思を表明できない場合は、法律上の権限を有する代理人から、可能な限りインフォームド・コンセント(医師からの十分な説明と患者さん家族の十分な同意)を得なければなりません。
(2)法律上の権限を有する代理人がおらず、患者さんに対する医学的侵襲が緊急に必要とされる場合は、患者さんの同意があるものと推定します。ただし、その患者さんの事前の確固たる意思表示あるいは信念に基づいて、その状況における医学的侵襲に対し同意を拒絶することが明白かつ疑いのない場合を除きます。
(3)しかしながら、医師は自殺企図により意識を失っている患者さんの生命を救うよう常に努力すべきです。

<法的無能力の患者>
(1)患者さんが未成年者あるいは法的無能力者の場合、法域によっては、法律上の権限を有する代理人の同意が必要とされます。それでもなお、患者さんの能力が許す限り、患者さんは意思決定に関与しなければなりません。
(2)法的無能力の患者さんが合理的な判断をしうる場合、その意思決定は尊重されねばならず、かつ患者さんは法律上の権限を有する代理人に対する情報の開示を禁止する権利を有すします。
(3)患者さんの代理人で法律上の権限を有する者、あるいは患者さんから権限を与えられた者が、医師の立場から見て、患者さんの最善の利益となる治療を禁止する場合、医師はその決定に対して、関係する法的あるいはその他慣例に基づき、異議を申し立てるべきです。救急を要する場合、医師は患者さんの最善の利益に即して行動することを要します。


5.個人のプライバシーや尊厳を守られる権利

<守秘義務に対する権利>
(1)患者さんの健康状態、症状、診断、予後および治療について個人を特定しうるあらゆる情報、ならびにその他個人のすべての情報は、患者さんの死後も秘密が守られなければなりません。ただし、患者さんの子孫には、自らの健康上のリスクに関わる情報を得る権利もあり得ます。
(2)秘密情報は、患者さんが明確な同意を与えるか、あるいは法律に明確に規定されている場合に限り開示することができます。情報は、患者さんが明らかに同意を与えていない場合は、厳密に「知る必要性」 に基づいてのみ、他の医療提供者に開示することができます。
(3)個人を特定しうるあらゆる患者さんのデータは保護されねばなりません。データの保護のために、その保管形態は適切になされなければならず、個人を特定しうるデータが導き出せるようなその人の人体を形成する物質も同様 に保護されねばなりません。

<尊厳に対する権利>
(1)患者さんは、その文化および価値観を尊重されるように、その尊厳とプライバシーを守る権利は、医療と医学教育の場において常に尊重されるものです。
(2)患者さんは、最新の医学知識に基づき苦痛を緩和される権利を有します。
(3)患者さんは、人間的な終末期ケアを受ける権利を有し、またできる限り尊厳を保ち、かつ安楽に死を迎えるためのあらゆる可能な助力を与えられる権利を有します。

<宗教的支援に対する権利>
(1)患者さんは、信仰する宗教の聖職者による支援を含む、精神的、道徳的慰問を受けるか受けないかを決める権利を有します。


6.病院に提言・相談をする権利

(1)各病院や医療施設においては、患者さんや御家族からの人権問題・苦情に関する提言や相談を広く受け入れることが出来るように整備(投書箱や人権問題・苦情などの相談窓口を設置)がなされています。紀南病院でもこうした対応を行うとともに、こうした問題を検討して改善する委員会を随時もち、全職員に周知徹底するように努めております。
(2)なお、医療過誤に関する問題は、診療・看護などの業務遂行上、常に留意している重要事項であって、日常の臨床現場で経験する仔細な問題を含めて報告するシステムを構築しており、毎月幹部連絡会議で審議して対策を立てるなど、職員への周知徹底に努めています。


7.医療提供者に患者さん自身の健康に関する情報を正確に提供する責任

(1)診療・看護などにおける情報収集業務の中で大変重要なことは、患者さんや御家族からの自発的な患者さん自身の健康に関する正確な情報提供です。患者さんを担当させていただく医療スタッフは、情報収集のために専門的な事項を詳細にお聞きいたしますが、十分でないこともあります。円滑な診療や看護などの遂行のために、こうした関係の積極的な情報提供に御協力をして いただきたく存じます。
(2)このような情報提供によりまして、例えば、検査や治療に伴う薬剤アレルギーを未然に防ぐことも可能で、これによりさらに進んだ診療が展開出来ます。


8.他の患者さんの療養・治療に支障を与えないようにする責任

(1)患者さん自身の個人情報守秘義務につきましては、上述の如くです。従いまして、他の患者さんの療養・治療に支障を与えないようにする責任も同じ患者さん同志が共有していただかなければなりません。医療スタッフもこのことに十分注意をして対応いたしますので、御協力よろしくお願いします。

平成19年8月8日 紀南病院職員一同
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